子や孫へ110万ずつ贈与すると,相続税対策になりますか?
1 贈与が相続税対策になり得る理由
贈与が相続税対策になる理由について知るためには,相続税の特徴を知る必要があります。
その特徴は,以下のとおりです。
⑴ 特徴1(財産の総額に対して課税される)
相続税は,亡くなった方が亡くなった時点で所有していた財産の総額に対して,課税されます。
イメージとしては,亡くなった時点で有していたプラスの財産を合算し,マイナスの財産を引き算することにより,課税対象となる財産額が計算されます。
⑵ 特徴2(累進課税になっている)
相続税は,課税対象となる財産額が多ければ多いほど,高い税率が適用されます。
相続税の税率は,最小では10%の税率が適用されますが,課税対象となる財産額が増えると,計算上,15%の税率が適用される部分が生じ,さらに課税対象となる財産額が増えると,計算上,20%の税率が適用される部分が生じるというように,適用される税率が徐々に増えて行きます。
計算上適用される相続税の税率は,最大で55%になります。
⑶ 贈与が相続税対策になる理由
それでは,多額の財産をもっている方が贈与を行うと,どのようになるのでしょうか。
贈与を行うと,所有しているプラスの財産が減ることになり,相続税の課税対象となる財産額も減ることとなります。
また,課税対象となる財産額が減れば,計算上,適用される税率が低い税率のみになる可能性があります。
結果として,贈与を行うことにより,「贈与を行った財産額×その財産に計算上,適用される税率」の分だけ,相続税が軽減されることとなるのです。
この点を踏まえると,贈与が相続税対策として有効であることが分かります。
税理士に相談した場合も,相続対策として,贈与を行うことを勧めることが多いでしょう。
⑷ 贈与の注意点
もっとも,このような対策には,いくつかの注意点があります。
以下では,贈与の注意点について,詳しい説明を行いたいと思います。
2 注意点1(子への贈与に相続税が課税されることがある)
⑴ 相続前3年以内の贈与は相続税の課税対象になる
贈与された財産は,基本的には,課税対象となる財産には含まれませんので,相続税の課税対象から外れることとなります。
ところが,相続税法は,相続前3年以内に相続人に対して贈与された財産については,例外的に相続税の課税対象となると規定しています。
このため,相続前3年以内に子に対して贈与された財産については,相続税の課税対象と扱われることとなります。
したがって,相続前3年以内に子に対して贈与を行ったとしても,相続税の額は変化しないこととなるのです。
⑵ 対策
もっとも,相続税の課税対象になるのは,相続前3年以内になされた相続人に対する贈与に限られます。
相続前3年以内になされた贈与であっても,相続人以外に対してなされた贈与は,相続税の課税対象から外れることとなります。
たとえば,子の妻に対して贈与したり,孫に対して贈与したりすると,相続の直前の贈与であっても,相続税の課税対象から外れることとなるのです。
3 注意点2(贈与した財産が名義財産と扱われ,実質的には遺産とされることがある)
⑴ 名義預金とは
子や孫名義の預金口座を作り,その口座に振込を行うことにより,子や孫への贈与を行うといったことは,しばしば行われています。
ところが,このような手法については,口座に振込を行ったにもかかわらず,子や孫への贈与が現実的に行われていないとされ,子や孫名義の預金が実質的には遺産に含まれるものと扱われることがあります。
このように,実質的には遺産に含まれると扱われる子や孫名義の財産のことを,名義預金と言います。
名義預金として扱われると,実質的には遺産であるとして,相続税の課税対象に含まれることとなりますので,「贈与」を行った意味がないこととなります。
なお,名義預金については,時効はありませんので,何年前に振込を行ったとしても,名義預金として扱われる可能性があります。
このため,長年形成した多額の預金が,一括して名義預金として扱われるおそれがありますので,注意が必要です。
相続税申告を行う場合にも,税理士は,必ずと言っていいほど,名義預金に該当するかどうかをチェックしますので,重要なポイントです。
⑵ 名義預金と扱われる場合
それでは,どのような場合に名義預金と扱われるのでしょうか。
たとえば,子や孫名義の口座の通帳,カード,銀行印を亡くなった方が管理しており,子や孫は通帳,カード,銀行印の保管場所すら知らないといった場合には,名義預金と扱われる可能性があります。
また,子や孫名義の預金を,子や孫が一切使っておらず,現実に子や孫が預金を管理しているとは評価できない場合にも,名義預金と扱われる可能性があります。
他にも,亡くなった方が松阪に住んでおり,金融機関の松阪市内の支店に子や孫名義の口座に振込を行っているものの,子や孫は松阪に一度も住んだことがないといった場合にも,注意が必要になってきます。
以上から,子や孫が通帳,カード,銀行印を管理し,自分のために預金を使っている等,預金の管理の実体が子や孫に移っていると評価されるかどうかが,重要な対策となってきます。
4 注意点3(贈与税の課税に留意する)
⑴ 贈与税の課税について
贈与された財産については,相続税の課税対象から外れることとなりますが,贈与の際,贈与税の課税対象となることがあります。
贈与税は,特定の個人が1年間に贈与を受けた財産が110万円(基礎控除額)を超える場合に課税されます。
贈与税も累進課税になっており,特定の個人が1年間に贈与を受けた財産が310万円(基礎控除部分を含む)までは,基礎控除部分以外の部分について10%の税率が適用され,310万円を上回ると,上回る部分について15%の税率が適用されるというように,徐々に税率が高くなっていきます。
最高で55%の税率が適用されます。
このため,贈与を行うことにより,相続税の課税は避けられたものの,贈与税が課税され,トータルの課税額がかえって増えてしまうといったこともあり得ます。
⑵ 対策
贈与税は,特定の個人が1年間に贈与を受けた財産が110万円(基礎控除額)を超える場合に課税されます。
裏返せば,複数の人に対して贈与すれば,複数の人について,110万円の基礎控除の枠を利用できることとなります。
たとえば,子だけではなく,子の妻に贈与したり,孫に贈与したりすることで,課税されることなく贈与できる財産を増やすことができます。
また,何年かに分けて贈与去れば,繰り返し,110万円の基礎控除の枠を利用することもできます。
さらに,相続税よりも贈与税の税率の方が低ければ,贈与を行った方が,トータルの税額を軽減することができ,有効な相続税対策になります。
したがって,相続税の税率が15%以上である場合には,あえて,10%の税率が適用される年間310万円の贈与を行い,トータルの税額を軽減するといった対策も考えられます。
⑶ 注意点
ただし,毎年,同額の財産を特定の人に対して分けて贈与すると,分けてなされた贈与が実質的には一度になされた贈与(連年贈与)であると扱われ,高税率の贈与税が課税されることもあります。
このような認定を避けるためには,贈与に対し,さらなる注意を行う必要があります。
5 相続税対策について
当税理士法人は,贈与税を用いた相続対策を含め,相続対策についてのご相談をお受けしています。
当法人の事務所は松阪駅から徒歩1分の場所にありますので,松阪近辺にお住まいで相続税対策についてのご相談がある方は,お問い合わせいただければと思います。
相続税の申告と納税はどのようにすればいいのですか? 相続放棄をすれば,相続税が課税されることはないのでしょうか?